なぜPEファンドにおいて投資案件のソーシングが最も重要視されるのか、という話。
その理由はいくつかあり、大きく分けると、
- そもそも投資対象が限られる
- 競争を勝ち抜かなければ投資できない
- 投資後にできることには限界がある
となります。今回は最初の「そもそも投資対象が限られる」について。
PEファンドは失敗できない
PEファンドはどんな会社にでも投資するわけではありません。
大前提として、PEファンドはVC(ベンチャーキャピタル)とは異なり、一般に投資先がつぶれることは許容できません。VCはたとえ1勝9敗でもその1勝がリターン100倍ならばいい、というある意味で博打的な要素があるのですが、PEファンドはそうはいきません。
一般論ですが、PEファンドの投資対象は既にそれなりの規模で事業を展開する企業になりますので、その企業の価値が100倍になるなどというのはほぼ考えられないからです。投資期間によるものの、投下した資本が2倍になれば及第点、3倍は優秀、5倍なんかになれば大喜び、という感じですので、投資先が1社ポシャってしまうとファンド全体のリターンが悪化します。
何としても投下資本の元本は回収する、というのがPEファンドビジネスの肝であり、それができるのが優秀なファンドマネージャーです。
投資先候補は「安定した企業」
つまり、想定通りならばある程度の投資リターンが見込めると同時に、多少想定が外れても大コケしないことが投資の条件となり、そうすると投資対象となる企業は自ずと絞られてきます。
まず、ある程度安定的なキャッシュフローが見込める(すぐにキャッシュがショートしてつぶれない)ことが求められます。こうなると、売上が特定の商品やサービスに偏重していたり、特定顧客に依存していたり、業界の近未来性が極めて不透明であったりすると、投資が困難になります。例えば、
- 売上の8割がとある一般薬製造・販売会社:その一般薬の需要がなくならない、という蓋然性が示されないと投資は難しい。
- 元某自動車メーカー系列で今も売上の過半を同自動車メーカーが占める:これもその自動車メーカーとの取引を減らされないという確約がないと、一般的にはきついです(過去にはそういうところに投資してめでたく盛大に爆死した事例あり。)。
- 例えば建設業界(といっても広いですが)などは一般に景気等の影響を非常に受けやすく、外部要因による業績の振れ幅が大きいですが、こういった業界への投資はハードルが一段あがる。
また、その企業のこれまでの業績が俗人的な能力に支えられている場合も投資が難しくなります。例えば、創業者のカリスマ性や並外れた営業力によって会社の今日が成り立っていると見受けられる場合だと、その創業者が会社を売却していなくなる(あるいは残ったとしても事業へのモチベーションが下がってしまう)と困ってしまいます。
当然、相手には売る理由が必要
さて、では逆に会社を売る側の立場に立ってみましょう。
あなたは、
- 一定規模の売上があり
- 特定の商品や顧客への依存はなく、業界もある程度安定しており、
- 俗人的ではない経営が確立されている
企業のオーナーあるいは経営者だとして、なぜその会社を売却する必要があるのでしょうか。
ファンド側はファンドのリソースを活用して事業の更なる成長をドライブする云々と言ってくるでしょうが、果たしてそれは会社を売却しないとできないことなのでしょうか。
オーナーであれば売却によりキャッシュを得ることはあっても我が子のように思う自分の会社を手放すことになりますし、経営者もファンドがどこまで好きにやらせてくれるかわかりませんし、もしかしたらいきなり首を切られるかもしれない。
特段必要に迫られていないのに、得体の知れないPEファンドとやらに会社は売却したくない、というのは極めて普通の感覚です。
裏を返すと、そんな企業が売りに出るのは何らかの事情がある場合に限られるのです。(この事情というのは、オーナーの事業承継問題であったり、大会社がノンコアの子会社を売却するケースであったり、比較的ドライに会社を売却する創業者(シリアルアントレプレナーであることが多い)であったり様々です)
結局、投資対象になる企業は限られる
つまり、とある企業が投資対象である上に、その企業側に売却のニーズがある、となると、そもそもその数が限られてくる、というわけです。現在日本には大小あわせて100近くのPEファンドがあると言われており、もちろんファンドの規模や投資対象の違いによってすべてが競合しているわけではありませんが、それでも一定の競争がある中で上記のスコープの合致する投資先企業を見つけてくる、というのは実はとても難易度が高いのです。